遺言書は作ることはいつでも自由にできます。そして遺言書には基本的に何を書いても自由ですが、遺言書に書くことにより法的拘束力を持たせることができるのは、法律で定められている一定の事項に限られます。
それらの事項は法定遺言事項と呼ばれます。この法定遺言事項以外の内容を遺言書に記載しても、その内容は法的拘束力を持ちません。
法定遺言事項
1.相続人の廃除および廃除の取消(民法893条、894条)
被相続人に対し、虐待、侮辱、非行等の著しい行為をした遺留分を有する推定相続人から相続人の資格を奪うことを「廃除」といいます。廃除されると遺留分の権利も失います。
また、被相続人が生前にした「廃除」を取り消すことができます。
2.相続分の指定または指定の委託(民法902条)
一部の者の相続分を法定相続分と異なった割合に定めることを指定できます。または、その指定を誰かに委ねることです。
ただし、債務に関しては相続する割合を定めることはできません。
3.特別受益の持戻しの免除(民法903条)
生前贈与(特別受益)は、相続開始時に相続財産に加え(持戻)ますが、それを免除することです。
ただし、遺言により特別受益の持戻しを免除されても、遺留分算定する場合には、その特別受益を持ち戻して計算する必要があります。
4.遺産分割の方法指定または指定の委託(民法908条)
財産の配分を指定することとその指定を誰かに委ねることです。
5.5年以内の遺産分割の禁止(民法908条)
遺産分割を禁止することができます。その期間は5年以内で、更新することもできますが、相続開始の時から10年を超えることはできません。
6.相続人相互の担保責任の減免または加重(民法914条)
取得した相続財産に欠陥があった場合や相続財産が債権であって満額回収ができなかった場合など、相続人同士で価値の減額分を補い合うことです。担保責任についてどの相続人がどれだけ負担するかを指定できます。
7.遺留分侵害額の負担順序の指定(民法1047条)
遺留分の負担の順序について、指定することができます。
ただし、大前提として、遺贈と生前贈与があった場合、負担順序は遺贈が先で贈与が後になり、この順序を遺言で帰ることはできません。
複数の遺贈・贈与が同時に行われたとき、複数の受遺者・受贈者の中で順序を定めることができます。
8.遺贈(民法964条)
「包括遺贈」または「特定遺贈」について定めることができます。
9.財団法人設立のための寄付行為(一般社団法人法158条)
遺言で財団法人を設立することが可能です。そのために必要な寄付行為を行うことです。
10.信託の設定(信託法3条)
信託を設定できます。
ここでいう「信託」とは、信託銀行等が行う遺言書の作成・保管・執行のパッケージサービスである「遺言信託」とは異なり、財産管理の「信託」のことを指します。
11.認知(民法781条)
非嫡出子(婚姻外にできた子ども)を自分の子とし、法的親子関係を生じさせることで、これを遺言によって行います。
12.未成年者の後見人および後見監督人の指定(民法839条)
未成年者に親権者がいない等の場合、遺言で未成年者の後見人や後見監督人を指定できます。
13.遺言執行者の指定・指定の委託(民法1006条)
遺言の内容を実現してくれる遺言執行者を指定し、またはその指定を委託することです。
遺言執行者は1人だけでなく数人を指定することができます。
14.祖先の祭祀主宰者の指定(民法897条)
「系譜、祭具及び墳墓など」を所有する者を定めることができます。
「系譜」とはいわゆる家系図等、「祭具」とは神棚や仏壇など、「墳墓」はお墓を指します。
ただ、こうした内容は葬儀の方法などにも関りがありますので、遺言だけでなく生前から周囲の人に伝えておくことも必要かもしれません。
15.生命保険金受取人の指定や変更(保険法44条)
文字通り生命保険金の受取者を変更することができます。ただし、変更できる範囲は、各保険会社の約款等で定められている範囲になります。
付言事項
付言事項とは、遺言に記載された法律行為以外の内容のことです。
「みんな仲良く暮らしなさい」であるとか「〇〇についてよろしく頼む」など、法的効力は伴わない内容でも、遺言者からの大切なメッセージであり、遺族にとっては重要な意味を持ちます。
そのほか、相続人以外への遺贈や相続人の廃除、法定相続分と異なった割合での相続の指定などについて、その経緯を説明する内容を添えることで、相続におけるトラブルを抑止する効果があるでしょう