遺言書には次の3つの形式があり、どの形式を選ぶかは遺言者の自由ですが、各々の形式において決められたルールに則って作成しなければならず、そのルールに反して作成された遺言書は、効力を有しません。
① 自筆証書遺言
遺言者が全文・日付・氏名を自書し、押印して作成する遺言書です。ただし、平成31年の法改正により財産目録については自筆以外のものでもよいことになりました。
【メリット】
●費用がほとんどかからない
●公証人の関与や証人が不要である
●いつでもどこでも思い立ったときに作成が可能
●作成したこと及びその内容を他人に秘密にすることができる
【デメリット】
●内容や様式に不備が生じる可能性がある
●相続開始後に家庭裁判所の検認が必要となる
※検認せずに開封すると5万円以下の過料に処せられる
●自書できない場合は作成不可能
●偽造や変造、破棄、紛失の恐れがある
令和2年から自筆証書遺言書保管制度が開始されました。
この制度を利用すると家庭裁判所の検認が不要となり、偽造、破棄、紛失などのリスクを軽減することができます。
ただし、内容や様式の不備が生じる恐れは免れませんので注意が必要です。
② 公正証書遺言
遺言者が公証役場に出向き、証人2人以上の立会いのもとに、公証人が遺言者から遺言内容を聴き取りながら作成する遺言書です。出張費用が掛かりますが、公証人に出張してもらうことも可能です。
【メリット】
●法律の専門家である公証人が関与して作成するため、形式的な誤りが生じにくい
●公証人が遺言者の遺言能力の有無を確認するので、この点について後ほど争われる可能性が低くなる
※遺言能力とは遺言の内容を理解し、遺言の結果を弁識しうるに足りる意思能力をいいます。認知症でもこの能力があると判断されれば遺言書を作成することは可能
●家庭裁判所の検認が不要
●原本は公証役場で保管されるため、偽造や変造、破棄、紛失の恐れがない
【デメリット】
●公証人手数料がかかる
●作成に手間と時間がかかる
●証人2名の立会いが必要
●存在や内容を秘密にできない
【公証人手数料について】
遺言する財産の価額 | 公証人手数料 |
100万円まで | 5,000円 |
200万円まで | 7,000円 |
500万円まで | 1万1,000円 |
1,000万円まで | 1万7,000円 |
3,000万円まで | 2万3,000円 |
5,000万円まで | 2万9,000円 |
1億円まで | 4万3,000円 |
3億円まで | 4万3,000円+1億円以上の部分について5,000万円ごとに1万3,000円 |
10億円以下のもの | 9万5,000円+3億円以上の部分について5,000万円ごとに1万1,000円 |
10億円を超えるもの | 24万9,000円+10億円以上の部分について5,000万円ごとに8,000円 |
この手数料は、遺産の合計額にかかるわけではなく、相続又は遺贈を受ける人ごとにその財産の価額に応じてかかります。
また、遺言加算と言って、財産の価額が1億円以下のときは、上記手数料表の額に1万1000円が加算されます。
(例)相続人Aに1000万円、相続人Bに3000万円、相続人Cに5000万円を相続させる場合
相続人A分の手数料:1万7,000円
相続人B分の手数料:2万3,000円
相続人C分の手数料:2万9,000円
遺言加算:1万1000円
合計:8万円
③ 秘密証書遺言
遺言者が作成した遺言書を公証役場に持ち込み、公証人と2人以上の証人に遺言書の存在を公証してもらう遺言書です。署名・捺印だけは遺言者自身で行う必要がありますが、作成については代筆も可、自筆ではなくパソコンでの作成も可です。
【メリット】
●遺言の内容を秘密にできる
●偽造や変造を防ぐことができる
●パソコンによる作成や代筆が認められる
【デメリット】
●内容や様式に不備が生じる可能性がある
●作成に手間と時間がかかる
●証人2名の立会いが必要
●公正証書遺言に比べると安いが費用が掛かる
●家庭裁判所による検認が必要
●紛失の恐れがある
以上の通り、3つの遺言書形式は各々にメリットとデメリットがあります。
遺言書が方式不備により無効になると、せっかくの手間暇がすべて無駄になってしまいますので、それを避けるべく、公正証書遺言を作成することが、最も確実だと考えます。
ただし、自筆証書遺言についてもメリットは存在し、保管制度の活用などでデメリットを補うことも可能です。
ご自身の希望する遺言の内容に合わせて選ぶことが重要ですが、もしも迷うことがあれば専門家に相談することが一番の解決方法だと思います。